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「綺麗に直す」が正解とは限らない。アルチザンの靴修理】

9月9日
読了時間: 5分

靴修理の仕事をしていると、「綺麗に直す」という言葉について考えさせられることがあります。


傷んだ箇所を取り除き、形を整え、左右を揃え、できるだけ元の状態に近づける。

これは靴修理において、とても大切な技術です。


日本の靴修理には、こうした「綺麗に、確実に、丁寧に直す」という美意識が強く根付いているように思います。仕上がりの均整や耐久性を追求し、細部まで手を抜かない。そうした仕事を支えてきた職人さんたちは、街の修理店から百貨店の工房まで、決して少なくありません。


私自身も、これは日本の靴修理が持つ大きな長所だと思っています。

ただし、靴によってはその「綺麗さ」が必ずしも正解とは限りません。


その代表的な存在が、いわゆるアルチザン系の靴です。



●アルチザン系とは


そもそも「アルチザン(artisan)」とは、フランス語で「職人」を意味する言葉です。


ただ、現在ファッションの世界で使われる「アルチザン」は、単純に「手作り」という意味ではありません。素材の選択から造形、縫製、仕上げに至るまで、作り手自身の判断や技術が強く反映されているものです。大量生産では効率のために省かれてしまうような工程にも手をかけ、作り手固有の美意識や癖までもが製品に残っているものです。


この記事では、そうした「作り手の個性そのものがプロダクトの魅力になっている靴」を、アルチザン系の靴と呼ぶことにします。


●アルチザンと靴修理のギャップ


こうした靴には、少し不思議なところがあります。

よく見ると左右が完全には揃っていなかったり、ソールのラインが微妙に揺らいでいたり、革のムラや傷をわざと目立つ部分に配置したりします。

けれど、それは必ずしも「精度が低い」ということではありません。

そこには作り手の思想や手仕事の気配が宿っているのです。

そして、それらが積み重なることで醸し出された「世界観」まで含めて、その一足の靴が成立していることがあります。


ここで、靴修理という仕事の難しさが出てきます。

修理人は、傷んだものを整えるのが仕事です。


曲がったものは真っ直ぐに矯正し。

左右のブレを平均化し。

傷んだ部分はなるべく目立たないように。


普段の靴修理では、「整っていること」がそのまま靴の美しさにつながる場面が多々あります。


ところがアルチザン系の靴の場合、「整えること」が価値になり得るとは限りません。

一般的な革靴ではマイナスに見えるような特徴が、むしろその靴の個性として受け入れられていることも多いからです。


実際、アルチザン系の靴をお預かりするときには、お客様と「修理する上で、ここは大事にしたいですよね」というディテール確認を行います。

ソールの仕立てであったり、アッパーの仕上げであったり、それは個体によって様々です。


修理する側が普段「当たり前」としている仕上げをそのまま当てはめるのではなく、その靴の形や仕上げを確認したうえで、どこまで整え、どこを残すかを判断する。


私はそれがアルチザン系の靴を修理するときの基本姿勢だと思っています。


●実際の修理プロセス


今回はその一例として、キャロル・クリスチャン・ポエルの修理事例をご紹介します。

修理品はすでにある程度履かれた状態で、かかとのリフト交換が必要なタイミング。

併せてつま先側(フォアパート)も補強するためハーフラバーを貼ります。




●ハーフラバー施工


採用したのはVIBRAMエクスプロージョンのセットアップ。

グネグネと曲がった溝(トラクションパターン)が特徴的。雨天時の排水性と耐久性に優れた材料で、実用性重視の方に人気です。


ハーフラバーは2.2mm厚で当店の薄型カテゴリー(2.5mm未満)の中では一番厚いです。

その分たくさん歩いてもへっちゃら。

しかもこのエクスプロージョンの優秀なポイントは、グネグネの溝があるおかげで曲面に貼っても反発が生じにくいこと。

CCPの丸みを帯びたソールエッジにも馴染みやすく、履きこんで反り上がったレザーソールにも寄り添ってくれます。



ハーフラバーは普段より多めに面取りを施し、ザラっとした質感と有機的なシルエットを残す。


(面取り=エッジを落としてバリが出ないようにする加工)
(面取り=エッジを落としてバリが出ないようにする加工)
(ロゴは残るように設置位置を調整する事も可能)
(ロゴは残るように設置位置を調整する事も可能)


●トップリフト施工


トップリフト(かかとパーツ)はレザー化粧板ですが、実用を重視し同じくエクスプロージョンのリフト。

7mm厚でハーフラバーとのセットアップとして統一感があります。

通常なら磨り減った踵底面パーツを外して新しいリフトを接着、その後トリミングして成形です。

しかし今回は先に成形してしまい、最後に接着する方法を採用します。


(接着面の処理も大事な仕込み)
(接着面の処理も大事な仕込み)

普段、靴修理では部材のトリミングや成形に高速カッターやグラインダーマシンを使います。

部材を本体に接着した後だと削り角度に制限が生じて仕上がりが直線的になってしまうので、今回のようにあらかじめ加工する事でゴリゴリした風合いに仕上げることが可能になります。


もちろん通常手順に則って、均整のとれた「バシッとした仕上がり」もできるので、そちらが好きな方はお好みに合わせてご指定ください。



CCPのデコボコしたソール構築を意識し、ワイルドな仕立てで成形します。


※ちなみにデコボコさせずバシッと後加工した事例がこちら↓


(かかとの積み上げ革に揃えて加工した事例)
(かかとの積み上げ革に揃えて加工した事例)
(かかとの積み上げ革に揃えて加工した事例)
(かかとの積み上げ革に揃えて加工した事例)

●完成がこちら


靴底の前後をラバーで補強しました。


・グリップ性

・耐摩耗性

・クッション性


これらが向上し実用性がよくなりました。

オリジナルを残す事や、逆に大胆リメイクする事、はたまた自分用にパーソナライズする事など、靴修理には様々な可能性や選択肢が存在します。

靴本体の設計やオーナー様の意向、ショップの得意スタイルなど、いろんな要素が噛み合って初めて最高の結果が生まれます。

皆様が素敵な革靴ライフを送れるように、お手伝いできたら幸いです。


YUMA.



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