【BACKLASH】カタヤマイズムを失わない修理とは?【アンチピカピカ】
- fanseternalofficia
- 9月11日
- 読了時間: 4分

革素材へのこだわりと執着を徹底して貫くブランドとして”バックラッシュ”の名は国内外に轟いています。
デザイナーの片山氏はめちゃくちゃ貫禄のある佇まいで、初めてお会いした際その立ち振る舞いに圧倒された一方、案外気さくに話してくださり、「あ、怖い人じゃなくて、ひたすらカッコいい人なんだな」って安心した記憶があります。
そんな片山さんは「うちのプロダクトは手入れ(メンテナンス)しないでくれ」とアナウンスしているそうで、革のポテンシャルとエイジングをとことん追求した世界観を展開しています。
すると困るのは我々です。
修理屋はお手入れや補修することが生業ですので、ご依頼を受けた以上「状態の最善化」が求められます。
しかし、通常であればその目的達成に一番近いと思われる「美化」はカタヤマ法典においてはご法度……。
では「美化」を回避しつつ「状態の最善化」を目指すほかありません。
今回のご要望は二つ。
①限界まで削れた靴底を直して欲しい
②乾燥と塩浮きで硬化した革をコンディショニングして欲しい


いずれもよくあるご要望で、いかに美しく仕上げるかが腕の見せ所なのでありますが、今回はカタヤマイズムを踏まえて作業にあたる必要があります。
まず①です。
仕様は純正に倣ってレザーのシングル仕立てのシンプルな構成です。
ところがいつもの紳士靴の要領で仕上げてしまうと、”折り目正しい古典スタイル”のバックラッシュが誕生してしまいます。
それは絶対に避けねばなりません。
そこでディテールの仕上げに様々な仕掛けを施しました。
まずは何と言っても目立ちやすいソールエッジ(コバ面)です。

荒い番手→細かい番手で削り成形したのち、インクとワックスで目詰め(艶出し)していくのが一般的な手順になります。
ではピカピカさせ過ぎず(美化回避)に仕上げる方法といえば、
●荒い番手で成形を終え、インクだけ入れて自然乾燥
これが最もシンプルでポピュラーな手法だと思います。
ブーツやクラフト系の作風でもしばしば見られますね。
ただ使い込んだアッパーに対しては、いささか貫禄にかけるように感じました。
革製品の多くは、使い込むごとに自然と磨かれ”とろみ”のある表情に育っていきます。きっと片山さんもそこを前提にしての「メンテ不要論」アナウンスだと感じるんですよね。
言い換えれば「ひたすら使い込むことこそ最大のメンテナンス」。
日々使ってる革小物ってクリームとか塗らなくてもパサパサしないしカビも生えないし。
年に数回しか履かない一張羅革靴の方が案外クラック入っちゃったりするんですよね。
そんな「あらびれの中にもとろみがある状態」を作るべく、コバの削り番手はドレスシューズと同じ程度の細番手で成形。
その後インクで着色しすぐさまバフ(回転ブラシ)で塗膜を剥離させます。
つまり表層に薄く染み込ませるだけでコバをコーティングしないようにするわけです。
それでもある程度綺麗になり過ぎてしまうので、化学薬品を使いソールの繊維を無理やりこじ開けます。
同時に色とワックスも飛ぶので偶然性に富んだコバの表情が顕れるわけです。
そこから木ベラで開いた繊維を潰して再び表面を締めていきます。仕上げ工程を行ったり来たりしているうちに”とろみ”が出てきます。

あとはソールエッジの角を面取りし丸みをつけたり、底面の染色をマダラに仕上げて”機械っぽさ・量産っぽさ”を排除していくのです。
手間をかけて手間かかってないように見せる、それはそれで楽しい仕事です。
さあこんな風にソールが出来上がったらお次はアッパーです。
こびりついた汚れも、革内部に溜まった塩も水溶性ですので落とすのは割と簡単。
ステインクリーナーで溶解しちゃえば風合いを損ねずに除去できます。
肝心なのは保湿ですが、通常のクリームではワックスが含まれているので「磨いた感」がかなり出てしまいます。
そこで使用したのがこちら。

デリケートスプレーはデリケートクリームのスプレー版で、とにかくサラッと仕上がります。
噴霧することで均一かつ薄付きにコントロールすることが可能。
デリケートクリーム直塗りでも問題ないのですが、今回はより質感の変化を厳密に抑えるべく使用しました。
そのかわりに内側からたっぷり保湿剤を塗布しています。
アンライニング(内張なし構造)のため、裏側からでも十分吸い込んでくれます。
見た目はなるたけ味付けせず、最大限のコンディショニングを行なったつもりです。









仕上がりをご覧いただいたお客様の表情をみた瞬間、いろんな狙いがちゃんと伝わったことが実感できて嬉しかったです。
ピカピカに復活させることが多い靴修理ですが、”退廃”を美徳とする世界観やファッションもあります。
いろんなジャンルを表現することで、自分のスタイルも一辺倒にならず非常に楽しいです。
ご依頼ありがとうございました。
YUMA.

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