RED WING9060。
ベックマンをベースに「茶芯×フラットボックス」というヴィンテージエッセンスを掛けあわせた、ツボを突きすぎてもはやあざといぞ!と言っても過言ではないRW近年のヒットモデルです。

(アッパーデザイン(型紙)はベックマンと同じ)
このブログ読者諸君には言わずもがなかもしれませんが、茶芯とは「茶色の革を黒く染め上げた革」の通称です。
ジーパンのような色落ちによるコントラストが最大の特徴で、古き時代の雰囲気を味わえます。
純正においてはウェルトやアイレットを茶系でまとめています。
これはクロンダイク(RW茶芯レザーの名称)の褪色を見越しての仕様と考えられます。
黒と茶の分布を散りばめることでブーツ全体の統一感を高めようという演出ですね。

(実はステッチやウェルトにブラウンが採用されている)
しかしながら本来の”茶芯”とは
「黒靴を作りたいが茶色の革があるから染めて使っちまおう」
という当時の思惑により誕生しています。
つまりアッパー以外の部材は黒の色調で仕様を想定していることが多いのです。
(ちなみに大衆向け紳士靴は昔から黒靴が主流。道路事情が悪かったため汚れが目立たない黒が重宝された)
ところがどっこい9060は茶色の割合が多く、「いずれ茶色が出てくることを知っている」未来からの視点と価値観によって生まれたプロダクトなのです。
(たとえば明治を知っているからこそ「幕末」という呼び方ができるのであって、幕藩体制の只中にあっては現在が時代の末期だとは認識できないように、茶芯だって当時は『やたら黒が抜ける靴だなぁ……』という認識であったはず。)
そもそも復刻を謳っているわけではなく、あくまでも過去のアーカイブへのリスペクトをふまえつつ現代のファッションシーンへの新たな提案としてのアプローチだと理解しています。
ただそのドラマチックな出自をもってして「黒靴として生み出されたストーリー」を想像してみたくなることもごく自然なことでしょう。
そこで今回はオールブラックの仕様にてカスタムいたしました。
名付けて”Head-to-toe Black Custom”。


(ラバーの存在感を強調するため、ボトムカラーは黒(カラス仕上げ)ではなくあえて伝統的なブラウンでコントラストを高めます)

クラシカルなレザーのシングルソールをベースにしながら、さらに薄さを追求し2mmの薄口ハーフラバーをセット。

(キャッツポゥヒールでヴィンテージの趣をプラス)
ウェルトは吟を剥いて黒に染色。
ダシ糸ももちろんブラックで。


(持ち込まれた段階でオーナー様自ら黒に染めてらっしゃいましたが、細部ゆえ意外と塗りにくく下処理をしないと色が乗りにくい。ところどころ茶色が覗いている)
ブラウン塗装仕上げのアイレットとスピードフックも全て交換。
ブラックニッケルメッキのためラッカーのような塗膜剥がれの恐れもありません。

着脱に便利なスピードフックからオールアイレットに変更することでワーク感が薄れ、20世紀前後のドレスシューズとブーツの垣根が曖昧だった頃の面影を意識させます。
もっぱら9060は補色なしのメンテナンスをされる方が多いようですが、今回の”Head-to-toe Black Custom”のコンセプトであればサドルアップのブーツクリームで透け感のある黒補色を行なっていくと雰囲気が良さそうです。(ブーツクリームは染料ベースで補色隠蔽力が弱いため透明感のある補色レイヤーをかけられる)

同じプロダクトであってもカスタムやメンテナンス次第で大きな振り幅を見せられるRED WINGはホントに優秀なカスタムベースと言えます。
YUMA.
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