岐阜県のブーツメイカー・Argoさん製作のブーツをカスタムする依頼をいただきました。
膝丈にも迫るなんとも気合の入ったロングシャフトが印象的です。
こういう攻めたプロダクトには作り手のこだわりを感じますね。
オーナー様はさらに自分好みにしたいと言うことでご相談を受けました。
①今よりももっとヒールを高くしたい
②ロガーヒールのカーブ度合いを急にしたい(アールをキツくしたい)
オーナー様はブーツ愛好家で、これまでも様々なブーツを履いてきたためか自分好みのバランス感が鍛えられているのが伝わってきます。
仰る通りこのブーツはヒール周りを作り直すことで雰囲気をグッと変えることができます。
カスタムのやり甲斐があるということです。
理由は二つ。
まずは「シャフトが長い」ためです。
シャフトが長くなるほどブーツ全体の比率が上に伸ばされていくので、相対的にソールの存在感や重厚感が
薄れていきます。ナローラストや先芯無しといったスマートなアッパーシルエットであれば、低めのヒールでも前時代の匂いがマッチしてうまくハマります。
ところがワーク然としたボリュームのある木型の場合はヒールの高さで逞しさを強調することで、ヒールからシャフトまで芯の通った佇まいになるのです。
二つ目の理由はセパレートハーフラバーの張りこみ位置です。
ハーフラバーのアゴ(土踏まず側の端っこ)の位置がかなり深くヒール積み上げまで数センチしかありません。
そのため”シャンクゾーン”が狭まってしまうのです。(「シャンク」とはもっぱらソールに内蔵している踏まず芯を指しますが、シャンクが入っている範囲の土踏まずの空間そのものを言う場合もあります。混同しないように私はあえて”シャンクゾーン”と言い換えています)
このアゴ位置は一定のセオリーや材料による制限が存在し、自分好みに設定するには結構悩ましい要素であります。だからこそ設計者の思惑を感じ取れるディテールでもあるので皆さんにはぜひ注目してもらいたいです。
話を戻します。
このシャンクゾーンが狭いとソールの軽快さに欠けるためやや鈍重な印象を与えてしまいます。
したがってヒールを高くすることでシャンクゾーンを増やし、ソールに抑揚を生むのです。
「ならガンガン高くすればいいじゃーん」
とお考えかもしれませんがしばし待たれい!
そんな単純な話でもないのです。
本来靴とは”木型”をもとに形作られており、ヒールの高さも木型に依存するのです。
そしてリラスティング(再つりこみ)でもしない限り後天的にヒールハイトを変更するのはほぼ不可能です。
できるとすれば、可塑性のある柔らかめのシャンクが採用されていて、水分で中底をふやかして、プレス機にかける方法ですかね……。
靴への負担がでかいのと、アッパーパターンはそのままなので確実に変な皺が入ってくるでしょう。あまり現実的ではありません。
ではどうするか?
これはズバリカスタムベースの選定が肝です。
●ヒールハイトアップがやりやすい特徴●
・ブーツである(ヒール高が変わると靴内部における足のポジションも変わるため、足首である程度の固定ができると許容範囲が広がる)
・トースプリングがついている(ヒールが高くなるとシーソーのようにつま先が下がるため、多少下がっても地面と干渉しないことが大事)
・接地面が後方寄り(ヒールを高くすると接地する位置が前へ移動するため)
・分厚いハーフラバーを貼れる構造(フォアパートとヒールパートの高低差がきついとポジションが厳しくなるため、フォアパート側を少しでも厚くするとヒールの高さを相殺できる)
・ヒールが革の積み上げ式(プラスチックや集成材のヒールベースはバランスの微調整に不向き)
これらの要素が組み合わさることでヒールハイトを高めていくのです。全てが当てはまらなくとも可能ですが、条件が有利なほどヒールを高くできます。
では実際にヒールを積んでいく様子をご覧ください。
①まずはもともとついていたトップリフトを外す
(外しただけだとヒールのアゴが設置して水平にならない)
②次にヒールの接地面が平らになるよう削って調整する
(積み上げ革のアゴ部分を削って調整する)
③追加したヒール積み上げを固定
④トップリフトを取り付け
あとはカーブ状にヒールを成形していき完成です。
カーブの角度はトップリフトのサイズに左右されるので、アールをキツくしたい場合はなるべく小さなトップリフトを採用するのがミソです。
今回はフランス製ブロケットヒールを使用しました。
かなりシルエットが変わりオーナー様の理想に近づけられました。
ご依頼時にはベースをよく観察し、ヒールハイトアップに適うか判断いたします。もちろん擬似ヒールで着用感も確認します。
ベースによってはお断りしたりお勧めしない場合もありますがその際はすっぱり諦めてください。
YUMA.
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